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同一労働同一賃金最高裁判決について(2020年10月13日大阪医科大学事件)

公開日:2020/10/27 - 最終更新日:2022/06/07

2020年4月から大企業に同一労働同一賃金が適用されました。また、2021年4月からは中小企業に適用されるため、今まさに対応に追われているという会社は多いことと思います。

そんな中、先週5つの最高裁判決が出されました。ここでは、まず表記の事件について判決文から考えてみたいと思います。

 

この判決は、「賞与を全く支給しないことは不合理である」という方向で検討中の会社にとっては、方向性が逆行しているようで戸惑われたかも知れません。しかし、詳細をみると、「個別の事情によって判断は分かれる」ことがわかります。

 

<判決文概要(ポイント)>

1.       賞与

性質や目的を踏まえて諸事情を考慮することにより、不合理かどうかを検討

①     この大学の場合、支給額が基本給にのみ連動し、年齢や成績のほか、業績にも連動していない。そうすると、算定期間に在籍し、就労していたことの対価としての性質を有するから、同期間に在籍し、就労していたアルバイトに賞与を全く支給しないことは不合理とされる

 

②     契約社員に正社員の80%を支給していたことからすると、アルバイトには60%

正社員に対する賞与は、長期就労への誘因が含まれること、アルバイトの功労は正社員と比べ、相対的に低いことから60%とされている

 

【今回のケースの場合】

次の理由により、不合理とは言えない

①     目的

正社員としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図ることなどの目的で支給していた

②     業務の内容および責任の程度(職務の内容)

・正社員と原告に共通する部分はあるものの、原告の具体的な内容は、相当に軽易である。

・正社員は、これに加えて、さまざまな業務に従事する必要があり、重要な施策も含まれ、責任は大きい。両者の職務の内容には一定の相違があった。

・正社員には就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったが、アルバイトについては原則として業務命令によって配置転換されることはなく、人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われており、両者の変更の範囲には一定の相違があった

実態として、H25.1~H27.3までの間に正社員の約30名が人事異動の対象となっていた

 

③     その他の事情(人員配置の見直し、登用制度)

・大学はH13年ごろから、業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため、正社員からアルバイトに置き換えてきた。

その結果、原告が属する教室の正社員はわずか4名まで減少し、他部署の正社員とは職務の内容および配置変更の範囲が異なった。

・アルバイトには、契約社員、正社員への試験による登用制度があった(のに応募していなかった)

 

2.       私傷病による欠勤中の賃金

正社員には6か月間は給与全額支給。その後休職となり、2割支給。アルバイトにはいずれの制度もなかった。

①     私傷病による欠勤中の賃金は、正社員として長期にわたり継続して就労したことに対する評価。または将来にわたり継続して就労することに対する期待から、生活保障を図る趣旨である。

そうすると、フルタイムで勤務し契約を更新したアルバイトについては、職務に対する貢献の度合いも相応にあり、生活保障の必要があることも否定しがたい。私傷病による欠勤中の賃金を一切支給しないことは不合理である。

 

②     アルバイトの契約期間は1年であり、当然に長期雇用が前提とされているものではないことからすると、欠勤中の賃金のうち給料1ヶ月分および休職給2ヶ月分を下回る部分の相違は不合理

 

【今回のケースの場合】

次の理由により、不合理とは言えない

正社員にこの制度があるのは、長期にわたり継続して就労し、または将来にわたって継続して就労することが期待されていることに対し、正社員の生活保障を図るとともに、雇用を維持し確保する目的である。

契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているとは言い難いことや、原告の場合は、欠勤期間を含む在籍期間も3年余であり、勤続期間が長期に及んでいたとは言い難く、有期労働契約が当然に更新される状況にあったというわけでもない(上記1.②業務の内容および責任の程度、その他の事情(人員配置の見直し、登用制度)を考慮)

 

この判決の詳細を見ていくと、会社としてどのようにすべきか、大変参考になります。均衡待遇として示されている、①職務の内容、②職務の内容・配置変更の範囲、③その他の事情 が重要ポイントです。

 

  1. 賞与
    • 何のために払う賞与なのか

在籍に対する賞与であれば、アルバイトになしというわけにいかず、相応の賞与が必要になるでしょう。業績に連動するのであれば、何をどう評価するのかを確認し、説明できるようにしておく必要があるでしょう。

  • 仕事内容や配置変更の範囲は同じなのか、異なるのか

支給額は、仕事の難易度や責任の程度、配置変更の範囲がどうなのかなどにより均衡のとれた額とする必要があります。

  • その他の事情

今回のケースでは、正社員と同じに見える場合でも、アルバイトに置き換える途中であったという事情や、アルバイトには契約社員や正社員への登用制度があった(のに応募しなかった)という事情が考慮されました。

 

  1. 私傷病による欠勤中の賃金

私傷病欠勤の場合で正社員に全額または一部支給するケースはそう多くないと思います。しかし、休職期間に差をつけている会社は多いので、参考にして見直す必要がありそうです。

私傷病休職は、長期勤続への期待、生活保障を図り、雇用を維持することが目的と考えられます。

今回のケースでは、契約期間が1年更新となっており、長期雇用を前提としていないこと、トータルの在籍期間も3年余りと短いことなどが考慮され、不合理ではないと判断されました。しかし、長期雇用のアルバイトであれば、仕事内容や責任の重さに応じた期間の休職が認められた可能性があります。

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